BST-072 (28)

♪ でも昨日には 帰れない ♪

 照明が落とされたドームの中で、何万ものファンの瞳がただ一点を見つめている。
見つめられる先では美希が歌っていて、美希からは爛々と光るファンの瞳と2人に一人の割合でファンが持っている発光ダイオードバーのほの暗い明りが見えている。
ダイオードバーは『蒼い鳥』のリズムに合わせてゆったりと左右に残像を描いており、美希にはそれがまるで彼岸の走馬灯のように見える。
前のドームの時にもいたファンたちはドームの中層向かって左手をがっちりと固めていて、『美希命』と書かれたのぼりまでもがゆったりと帆を翻している。
中層には二重構造になったドームと下界を繋ぐ出入り口があり、丁度出入り口はステージで歌う美希の視界の真正面に位置している。
親衛隊を自称するファンたちの横ではカメラクルーが業務むき出しのカメラをじりじりと回していて、まるで美希の僅かな仕草さえも漏らさないとばかりに美希の動きを追っている。

♪ 蒼い鳥 自由と孤独 ふたつの翼で ♪

 歌いながら、こんな事を考える。
―――ねえ、メカさん、見てる?
 大きく息を吸う。
もうずっと昔の事のように思える、メカ千早が歌った『蒼い鳥』。
あの時、美希は遠い昔のように感じる幸せだった日々を思い返した。
自分の体験のはずなのにあまりにも遠くなってしまった過去をはっきりと思い出していた。
 ちらりと横を見れば今は舞台袖にプロデューサーがいて、美希を眩しそうに見つめているのが遠目にもはっきりと分かる。
―――千早さん、帰ってくるって。プロデューサーも帰ってきてくれたんだよ。
 今日、千早は帰ってくるという。プロデューサーは2か月前に帰ってきた。
遠くなってしまった幸せな日々が、もう間もなく再び蘇ろうとしている。
 その時、メカ千早が隣にいてくれたらどんなに楽しかっただろう。
どんなに望んでも、どんなに願ってももうメカ千早は美希の隣に立つ事はない。
―――きっとその友達もそう思ったんじゃねえかな。

♪ あの天空へ 私は飛ぶ 遥かな夢へと ♪

 そうだといいな、と思う。3時間前に言われたプロデューサーの言葉が脳裏に響く。
メカ千早は最期まで美希の友達であり続けた。プロデューサーが起きて、千早が帰って来て、メカ千早だけがいなくなった。
半年はあっという間に過ぎ去り、後悔を引きずる美希の半年にはいつだって横にメカ千早がいた。
半年に渡って美希を支え続けたメカ千早は、最後に礼を言った。
 今、メカ千早はもういない。
 歌うには心が必要だ、と誰かが言った。最初は馬鹿にしていたその言葉を、次の瞬間には吹っ飛ばされるほどの衝撃で体感する羽目になった。
メカ千早の歌にも最初は心がなかったのだと思う。
あの時はメカ千早に千早になってもらいたい一心で、そんな事を考えてもいなかった気がする。
 それでもメカ千早は練習し、CDを聞き、ライブを見に来て、次に歌った『蒼い鳥』には確かに心があった気がする。

 守られていたのだ、と今更思う。
プロデューサーがいなくなった寂しさから、千早がいなくなった孤独から、メカ千早は文字通り体を張って美希を守り続けてくれていたのだと思う。
 メカ千早の心に応えなければならない、と思う。

―――ミキ、頑張るよ。メカさんの気持ちに応えるよ。でも、

 思うのに、

 いつだって自分は与えられてばかりだった気がする。
何か一つでも恩を返すなら今をおいてほかにないとすら思うのに、美希は歌いながらそんな事を考えている。
ありもしない未来の画像を、起き得もしない楽しいはずの将来の絵を、美希は脳裏に思い描いている。
―――でもさあ、
 右を見ればプロデューサーが笑っていて、左を見れば千早が苦笑していて、前を見ればメカ千早が困ったように笑っている楽しい夢を見ている。
 ありもしないし、起き得もしないし、しかし現実になったらどれほど嬉しかったか分からない夢を、美希は歌いながら脳裏に描いている。

♪ この翼 もがれては 生きてゆけない 私だから ♪

―――寂しいよ、メカさん。

 どんなに幸せだったか分からない。
 どんなに嬉しかったか分からない。
 プロデューサーが入院し、千早は海外に出て、灰色だった2ヶ月はメカ千早が事務所に現れたことで色がついた。止まった時計が動き出したと思った。
 それなのに、美希の景色に色を着けたその人は、765の時計に油をさしたその人はもういない。
望んでも、願っても、何を差し置いてももう二度とその人を見ることはないのだと思う。
 それが美希には、途方もなく寂しい。
 望めるなら、願えるなら、もう一度だけでいいから会いたいと思う。
 歌が終わり、ダンスが終わり、何万もの客席に余すところなく座ったファンの群れが怒涛のような拍手で美希を称賛する。
美希は一度だけ深々と頭を下げてその爆雷のような拍手に応え、マイクをギュッと握りしめた。
 ライブの最後の曲の前に、口上をしなければならない。

「みんなーーーーっ! 今日は聞いてくれて、見てくれて、本当に、本当にありがとなのーーーっ!!」
 雄叫びのような歓声が聞こえる。ステージのライトとダイオードランプと非常口の頼りない明り以外にドームの中には光はなく、ただドームに押し掛けた何万ものファンが一言をすら逃さないとばかりに目を見開いて美希を見ている。
 この何万ものファンの中に、もう一度会いたいと願う人はいないのだと思う。
「ミキね、この1年、ほんとに色んなことがあったの」
 声がマイクに拾われ、ステージの上部に備えられたスピーカーが何万ものファンに語りかける。
歓声は瞬時に静まり、美希の次の言葉を待つファンたちが固唾を飲んで美希の次の言葉に耳を傾ける。
「嬉しかったことも、悲しかったことも、楽しかったことも一杯、一杯あったよ」
 美希の言葉はそこで区切れ、ファンの腹の中に燻ぶる熱がそこで一息に吐き出される。
ドームに響き渡るファンの嬌声は留まることを知らず、外にまで漏れ出ているのではないかと思える声が美希の体全体に響く。
 今までの人生が霞むくらいの1年だった。
嬉しかったことも、悲しかったことも、楽しかったことも、辛かったこともあった1年間だった。
プロデューサーが入院してからは、千早が海外に行ってしまってからは考えることも増えた。
なぜだろう、という疑問がいつも脳裏にあった半年だった。
 それが、メカ千早が現れて払拭された。
本当に悲しかったし、本当につらかったが、それでも楽しかったと美希は思う。
千早そっくりの外見をしていたくせに、性格まで千早そっくりだったくせに、歌はまるでだめだった最初の頃を思い出す。
事故や渡米はあまりのインパクトではあったし、なぜだろうという疑問は払拭し難かったし、忙しくしていれば余計な事を考えずに済むと遮二無二仕事をし続けた半年だった。

 メカ千早の存在が、あのまま行けば壊れたかもしれない美希の心を守ってくれたのだと思う。

「でも、いろんな人に支えられてここまで来れたの。プロデューサー、スタッフのみんな、ファンの人たち、」
 ファンの人たち、と言ったところで会場が揺れた。
戦地に向かう弱卒を鼓舞するような旗の閃き、旗の横でならされる大太鼓の音、もはや残像でしか知覚できないダイオードランプの群れ、両手にパンフレット以外は何も持たないファンたちは逸る気持ちを表現するかのように両手を打ち鳴らし、それでもなお情熱が収まらないファンが踏みならす足音はまるで地震を思わせる。

―――それに、大切な友達。

 それは、言わずにおこうと思う。
もう、大切な友達はいないのだから。
どこを見ても、どこに行っても、どれだけ探し回ってももう、メカ千早はいないのだから。
 言ってしまったらもうメカ千早には決して会えない気がする。
この期に及んで、もう一度だけでもいいからメカ千早に会いたいと美希は願う。
「ミキね、来年もアイドル頑張るよ!! ちょっとだけお休み貰ったら、また頑張る!! だから、」
―――だからさあ、
 願いとは希望だ。
最後の最後まで取っておいて、辛くてキツくて仕方がない時に一瞬だけ出してくる人間の最後の扉だ。
薄皮一枚隔てたところに横たわる絶望と後悔を一瞬だけでも忘れされてくれる麻薬だ。
叶わないと知っていても、決してできないと分かっていても縋りたくなる最後の一線だ。
 ライブの時はプロデューサーの帰りを願った。そして今、美希は叶う事はあり得ない願いを心の中で懸命に祈っている。
―――また、会いたいよ。
 メカ千早に見ていて欲しいと願う。
もう決して叶う事はないと知りながら、美希はそれだけを願っている。
 何もかもを投げうって美希を守ってくれたメカ千早に、応えたいと願う。

「だから、」

 打ち合わせ通りに、そこでバックバンドが火を噴いた。
ギターとキーボードが半狂乱と言っても差し支えない振り乱しようでそれぞれの得物に息を吹き込み、美希が口上の最後に合わせて最高の歌を歌えるように舞台の準備を整え出し始める。

「最後まで、見てて―――」

 その時、美希の真正面に位置する扉が開いた。
誰かが飛び込んできたのが視界に入る。舞台とほの明るいダイオードバーに照らされる以外の光がない漆黒のドームの舞台にいて、美希には下界の光に照らされた人物ははっきりと見える。

 かなり細身だ。女性のように思う。
着ているのは白のタートルネックにブルーのジーンズ。
長い黒髪は腰まであり、どこから走ってきたのかその女性は出入り口の壁に手をついて肩で息をしている。
 その風貌に、美希は見覚えがあった。
―――千早、さん。
 見送りに行ったときとまるで変わっていないかのような風貌で、千早はまっすぐに美希に視線を送っている。

 千早だと思った次の瞬間、千早の姿が突然ぼやけ、美希の視界の中で千早の横に誰かが現れた。

 千早にそっくりだった。
かなり細身で女性のように見える。着ているのはタートルネックにブルーのジーンズで、長い髪は腰まであった。
まるで肩で息をする千早に瓜二つに見えるその人物はしかし、肩で息をすることなくまっすぐに美希を見ている。

―――メカ、さん?

 ありえない、と思う。
メカ千早は2ヶ月も前にこの世を去った。最期は看取ったし、という事は千早の後ろでまっすぐにこっちを見ている人物はメカ千早ではありえない。
美希の両手がだらりと下がる。
あと5秒もすれば歌い出しだというのに、美希は目の前に現れた幻に完全に心を奪われる。
千早の汗すら浮かんだ必死の表情の後ろで、千早そっくりの顔をしたその人物の表情が動く。

 寂しそうだが、確かに微笑んで見えた。

 あと3秒で歌いださなければならない事など頭から揮発してしまった。
美希はただ、茫然と千早と千早そっくりな人物の顔だけを見ている。
あり得ないことが起きたと思う。だってメカ千早はもういないんだから。もう、メカ千早はどこを探してもいないんだから。
 どこにもいないはずなのに、どこを探してももういないはずなのに、千早の後ろで微笑んでいるのはメカ千早だと美希は思う。
来てくれたんだと、また会いに来てくれたんだ思う。
 突如として視界が歪む。涙だと美希には分からない。ただひたすらに歪んだ視界の中で美希はメカ千早の顔を見ている。

―――ミキ、

 あと2秒のところで、頭の中に懐かしい声が聞こえた。半年にも渡って自分を支え続けてくれた友達の声だ。
ハッとする。そうだ、メカさんの気持ちに応えなければ。
 メカ千早が最期まで守ってくれた自分の姿を見せなければならない。
頭のどこか冷静な部分で、あのメカ千早は幻だと思う。彼女は死んだ。もういない。
だから、千早と並んで立っているのがメカ千早のはずがない。

 それでもいい。
 幻でもいい、夢でもいいから、どうか、

 美希は息を吸う。最後の曲を歌うために、メカ千早に応えるために、声を、

♪ 夜の、 ♪

 声が出てくれない。声の代わりに涙だけが溢れてくる。
きっとあそこにいるのはメカ千早だと思う。
 幻だっていい。夢だっていいのに、応えるべく出すはずの声がまったく出てくれない。
脳裏に蘇る膨大な思い出に押し殺されたかのように、美希はその場に立ちすくんで身動きがとれずにいる。
 歌が続かない事にバックバンドが動揺する。このまま続行していいのかどうかわからないという気配が観客席にまで届く。
どよめきが広がり、それでも美希は歌えず、ただ茫然とステージの真ん中に立って両手をだらりと下げ、起きて欲しかったが決して起きるはずがない奇跡を見ている。

 その時、声が聞こえた。

「美希っ!!」
 
 声に顔を上げる。
ステージの真正面、美希の視線からまっすぐにのばした先にある出入り口に壁に手をついた千早が、真っ直ぐに美希を見ている。
千早の隣に立っているように見えるメカ千早もまた、美希に向けてまっすぐに視線を送っている。
 涙で滲んでダイオードバーがネオンのようにみえる視界の中、千早とメカ千早の顔だけがはっきりと見える。
千早の口に連動するようにメカ千早もまた口を開き、

声を、

「頑張って!!」(―――頑張って!!)

 声が、聞こえた。
 奥歯を噛み締める。あそこにいるのはきっとメカ千早だ。ずっと見ていてくれたのだと思う。
左腕を握ってくれたあの時から、病院の屋上でもうやめると言った時から、765に現れてからずっと、メカ千早は見ていてくれたのだと思う。
 千早の叫びに呼応するかのように、ファンの誰かが美希コールを始めた。瞬く間にコールはドーム内を席巻し、立ちすくむ美希に向って夥しいコールが降り注ぐ。
どの顔にも必至な色がある。どの顔も必死になって美希の名前を呼んでいる。
 マイクを握り締め、美希は再び大きく息を吸い、ドームを埋め尽くすファンに、舞台袖で黙り込んでいるプロデューサーに、出入り口で呼吸を整えている千早に、
 最期まで、友達でいてくれたメカ千早に向けて、

 歌う、

♪ あの海 あの街角は 思い出に残りそうで ♪

 ダンスなどできない。今足を動かそうものなら恐らく途中で崩れ落ちる。
美希はただ両手で力強くマイクを握り締め、プロデューサーへの思いを、千早への思いを、友への願いを込めて声を絞り出す。
歌いながらぼろぼろと涙がこぼれてくる。それでも美希の声は決して途切れない。
自意識で使役できる随意反応をすべて喉に向け、一言すらも途切れないように美希は歌を歌う。

♪ この恋が 遊びならば ♪

 見ていてほしいと思った。聞いていてほしいと願った。
そしてそれは現実となり、メカ千早は今、千早の後ろでまっすぐに美希を見ている。
寂しげな笑みを浮かべながら、ただ静かに微笑みながら、メカ千早は今、掛け替えのない友のステージを眩しそうに見ている。

♪ 割り切れるのに、 簡単じゃない ♪

―――ねえ、メカさん、

 コールの声の合間から歌声が聞こえてくる。
会場のどこからか、美希の声に合わせて歌う声が聞こえてくる。
歌はまるでコールにとって代わったかのように会場を席巻し、何万もの座席に座った夥しいまでのファンが美希とともに「relations」を歌う。
嗚咽交じりの歌声まで聞こえる。美希は再びステージを取り巻くファンの顔を見回し、最後に出入り口を見た。

♪ じゃあね、なんて言わないで またねって言って ♪

―――ミキの事、見ててくれる?

 会場が揺れている。夥しいファンの中で、溢れ出る歌声の中で、美希はただ泣きながら歌を歌っている。
その眼が一点に注がれている。視線の先にいるのは、ただ微笑んでいるばかりのメカ千早だ。

 その微笑みに、美希は答えをもらったような気がした。

♪ 私のモノにならなくていい そばに居るだけでいい ♪

―――ありがとう。

 呼吸が上手くいかない。歌詞がつっかえるごとにファンの歌声が大きくなっていく。
涙の反射で狭くなった気道を気にすることなく、途方もない感謝だけを込めて美希は歌う。
思いが届いた事が嬉しくて、願いが叶ったことが嬉しくて、きっと夢だろうと思えることが悲しくて、きっと幻だろうと思えることが寂しくて、ただ美希はマイクを握り締めて嗚咽の中にも輝く歌を歌っている。
美希はメカ千早を見る。ずっと見ていてくれた事への感謝を、ずっと支えていてくれたことへの感謝を歌に込めて歌いながら、美希はメカ千早の事を見て、

 メカ千早が、口を動かした。

 ここからでは通常のボリュームの声など聞こえるはずがない。
ステージと出入り口の間には相当な隔たりがあるはずなのに、ファンの歌声があるためにここからメカ千早の声が聞こえるはずがないのに、美希の耳にははっきりとメカ千早の声が聞こえた。

―――アリガトウ。

 声に驚いて瞬きをすると、メカ千早はもういなかった。
観客席と出入り口を繋ぐ僅かなスペースには今、には壁に手を付きながら一緒に「relations」を歌っている千早だけがいる。

♪ アノコにもしも飽きたら すぐに呼び出して ♪

―――ねえ、メカさん、

 幻だったのかもしれないと思う。夢だったのかもしれないとも思う。
それでも出入り口の壁にはきっとメカ千早がいたのだろうと思う。
最期の最期まで友達であり続けた美希の事を、最後まで心配していたのだと思う。
メカ千早は笑っていた。きっと、それでいいのだろうと美希は思う。

 ダンスすらせず、美希はただ両手でマイクを握り締め、深い深い感謝だけを乗せて「relations」を歌う。
美希の心が、間違いなくメカ千早に届いたのだろうと思う。

 きっと、メカ千早が最期まで守り続けてくれた『ミキ』を、美希は見せることができたのだと思う。

♪ 壊れるくらいに 抱きしめて ♪

 覚えている。
 初めて会った時のあの夜。
 初めて歌を歌った時のあの難しそうな顔。
 歌を練習していた時の、あの真面目な表情。
 初めて『蒼い鳥』を歌った時の感動。
 病院の屋上で髪を切った時の、あの時の悲しそうな顔。
 友達だと言ってくれた時の、たとえようのない嬉しさ。

 美希は何もかもを覚えている。
決して忘れることはない。メカ千早が確かに存在して、ずっと美希の横に居続けていてくれた事を、美希はずっと覚えている。

♪ 壊れるくらいに ♪

―――楽しかったねえ。

♪ 愛して ♪

 歌が終わり、ダンスをしない美希はそこで深く頭を下げた。
まだ曲そのものは終わっていないのに、会場全体から豪雷のような拍手が美希に向けて送られる。
曲が終わってもまだ拍手は止まない。観客席に座っている者は誰もいない。
曲が終わった事を契機として、豪雷は積乱のような質量を増し、ただ舞台の上で頭を下げ続ける美希に向って降り注いでいる。
 ファンだけではない。プロデューサーも、律子も、袖の裏側で作業をしていた裏方も、出入り口の左を固めるカメラたちも、出入り口の壁にもたれかかる千早も、ドームの中にいる誰もかれもが掌が裂けんばかりの拍手を美希に送っている。

 美希は目を閉じる。ひたすらに頭を下げ続ける。
ドームを埋め尽くすほどに膨れ上がったファンたちに、自分を守ってくれたプロデューサーに、自分を支え続けてきてくれた律子に、自分を前へ向かせてくれた千早に、そして、

誰よりも近くで自分を見続けてきてくれた友達に向かって、美希は頭を下げ続ける。




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