声 (幕間 ある電話)

受話器を拾う音がする。
軽快な電子音が鳴る。



ぴっ、ぴぴ、ぴぴぴぴ、
ぷるるるるるるる、ぷるるるるるるる、ぷるるるるるるるる、
ガチャ、

ただいま、電話に出られません。ピーという発信音の後に、メッセージをどうぞ。
ぴ―――――――――――――――――――――――。

―――えー、国土省にお勤めのみなさんっ!!
 そして木村君の同僚であらせられる皆さん!
 日々お勤めお疲れ様ですっ!!
 この携帯の持ち主である木村君はですね!! そちらに移る4年前っ!! 社会人5年目にして飲み会でスポーツドリンクにビールを入れて飲みまして!! そのまま酔いつぶれてしっき…何だいるんじゃん。早く出ろよ。
 ああ? 知らねえよそんなモン、お前の社会的立場なんぞ知ったことか。
大体いいじゃないか別に職場で白い目で見られるくらい、人も羨む公務員様じゃないかお前。
どうせこの電話も自宅かなんかで受けて―――何? 残業?
 お疲れさまでぇす。
 うっせえよ。俺だって大変だったんだかんなこの1ヶ月。
ったく、3ヵ月前の資料漁りも肝が冷えたっちゃそうなんだけどさ。
…ああそうそう。黒井社長のガードの話。高木の親っさんから聞いた。なんだか妙に鋭いんだよあの人。
 ああ、うん。黒井社長がこっちの本当の狙いに気づいた気配は今んとこない。
まぁ、黒井社長っていいトコの坊ちゃんらしいじゃん?
 まったく、何が『アイドルマスター計画』だよ。あんなモン1週間かそこらで組み上げたシナリオだろ?
 まぁな、だから俺たちにまで仕事回って来たっちゃそうなんだけどさ。黒井社長がもう少し鋭かったら俺の立場込みでバレるかも知れないけどね。
 え? ああ、いや、それはないはずだ。
俺が前々まで765にいたなんて話は誰にもしてないし、職歴もクリーニングしたから官公庁への問い合わせ程度じゃバレないはず。
うるさいなわかってるよ、こっちの足の話は心配すんな、ヤバイ橋なら765時代にも何度も渡ったじゃないか。
この電話も別回線だし、961の施設は使ってないから組織盗聴の心配はねえ…は? お前何言ってんの? 使うわけないじゃん、961は後発なおかげでその辺きちっとしてるからな、今日はノー残業デーだよザマー見やがれ。
 ってか何かうるさいな、お前どこで話してんの? マジで? 寒くねえ?
 ―――わかったわかった、今度なんか奢るよ。マックスコーヒーなんてどうだ? 
お呼びでないですかそうですか。
 え? ああそうそう、そっちの話。あっちの計画はフェーズ4まで進んだってさ。小鳥さんが確認したって。
でなきゃお前なんかに電話なんかしないよ。

 しかしあれだね、プロデューサー君も可哀想だね。バラすのいつだっけ? 

 ああそう。死ななきゃいいけどね。
いや分かんねえよ? 人生に悲観して765の天辺から身投げするかも知んないし。
…冗談だって。そのために俺らがこそこそやってるんじゃねえか。
お前昔からこういう冗談分かんない奴だよな。あ、だから公務員になんてなれたのか!?
…冗談だよ怒るなって。
 こっちの頭数は動かせて15人くらい。お前のとこは? …いやまあ仕方ないよ。
うまいこと誘導してそっちの仕事に持ってく必要があるからな。木村君には期待しているってさ。え? ああ、社長社長。
 バーカ姐さんがお前ごときにんなこと言うかっつーの。この遠藤様も言われたことないんだぞ。
 いやいいけどさ。別に気にしてないけどさ。
 ん。そうそう。で、あれ、お前がプロデューサー君に接触するのいつだっけ? 春香ちゃんがうまいことやってからだっけか。
つう事はフェーズ5の直前? 間に合うのかそれ? …まあ、大江が言ったんならそうするけどさ。
 しかしザマないね。ああ、大江。うん、あの後飲んでさ。
ああいや、もちろんたるき亭じゃないさ。あそこは「計画」中は使えないだろうし。
俺と大江が会ってるところが万が一にも黒井社長にばれるとまずい。
あーあ、あそこの焼き鳥美味いんだけどなぁ。
 あ? ああ、そうそう大江。すーっげえ凹んでやがんのあいつ。
いやもー会った直後からべろんべろんに酔っ払いやがってさー。終いには「早く楽になりてー」なんて言うもんだからさ。
俺も何言っていいか分かんなくてとりあえず老酒飲ませてぶっ潰した。
 いや別に。「計画」立ち上げたの大江だし。同情もクソもあいつが始めた事じゃんか。
俺が何を言う筋合いもないし、あいつが殴られたがってんのは俺たちじゃないだろ。いい気味だと思うよ。
血反吐吐こうが胃に穴開けようが始めたのあいつじゃん。いいザマだ。血でも何でも好きなだけ吐いたらいいだろ。
 やるよ。やるけどね。仕事だし。
 何だよお前いやに大江の肩持つじゃん。どうでもいいけど。
でも俺ならやだなーあんなOJT。結局「計画」の最終目的は大江の穴埋めだろ? 結局テメエのケツを後輩に拭かせようって腹じゃないか。
 …ああ、確認した。抵抗もしようと思ったけど無駄だった。
そうそう、あそこまでホント。来年大江が総会に召集かけられてんのはホント。断りきれなかったって本人は言ってたけどね。
 実際んとこはどうなんだか。あいつ昔から一番ヤバいところは言わないところあるし。
 まあとりあえず、俺と木村であわせて30行くかなってところか。まあそんだけいれば何とかなるかな。
 いや? 俺らが実際にどう動くかはプロデューサー君の指示待ち。その辺も含めて姐さんにうまい事誘導して貰わないと。
それまで俺らは黒子だよ。

―――まあね。派手になるのは最後の最後だし。

 おお。そんなとこだ。じゃあまた、そのうち電話するよ。今度会うときにコーヒー奢る。
え? ああ、マックスコーヒー。ホットで。いいじゃん別に。糖尿になったら嫁さんにでもインスリン打ってもらえよ。うん。死ねこの野郎。
言っとくけどな、お前の漏らしネタ合コンで大好評だかんな、合コン参加者にとってお前は人生の負け組。ひひひ。
 おう。じゃあな、まだ仕事続くのか? ああそう。
 お勤めご苦労さんっす。



電話が切れる。
受話器が置かれる。



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